磁性鉱物の決め方

1. はじめに

堆積物(海や湖)のコア試料を研究する最大の魅力(利点)は,地球上に起こった変動を連続的に知ることができることでしょう.厚い本のページを次々とめくるように,過去のある時に起こった事件を明らかにができる,これこそが堆積物研究の醍醐味です.しかし,本の1ページが地球の歴史何年分に相当するのかは,堆積速度により大きく異なります.また,本と同じように,ときどきページがなかったり,折れていたり,あるいは虫に食われていること(最近はあまりそういう落丁本を見かけませんが)もあります.時には,誰かによって書き換えられてしまっている(コア採取時に起こるいろいろなトラブル)かも知れません.

ですから,コア試料の記録をそのまま信用することは危険です.古地磁気学という分野に限っていいますと,コア試料の残留磁化の変動が,本当に地磁気の変動を反映しているのかどうかは,残留磁化方位の評価とは別な視点から調べる必要があります.そのための方法としては,コア試料に含まれている残留磁化の担い手である磁性鉱物を調べるのが王道です.なお,磁性鉱物とは何かということについては,普通に磁石に引き寄せられる鉱物という程度のあいまいな定義でまずスタートしておきましょう.

コア試料中の磁性鉱物を調べることは,古地磁気記録の品質保証という目的以外にも,そのこと自体が過去の環境変動を推定する手段にもなります.環境磁気学といわれている研究分野(鳥居,2005;2008)です.もう少し広くとらえれば,堆積物の岩石磁気学ということもできます.

磁性鉱物の調べ方は,磁性体の物理学という物性物理学の重要な分野で蓄積されてきた知識を基礎にしています.では,まるで物理学かというとかなり違います.一般的にいって,物性学ではきちんと成分や,形や,大きさが知られてる試料について,その磁性を詳細に知り,そこから一般的な法則を導きだそうという研究が中心です.しかし,ひどい言い方をすれば,私達の研究は泥の中から拾い出してきた,素性や形さえ定かでない汚らしい(?)ある特定の天然物が何であるか分かればいいのです.天然物である磁性鉱物(鉱物というのは天然物だけを指します)が研究対象であり,きちんと準備された素性の正しい実験材料を扱う訳ではないので,物性学の手法とはかなり発想が違う部分があるのです.

なかでも,堆積物を対象としている場合にはいろいろな難しさがあります.なぜかというと,堆積物中の磁性鉱物は,微量(通常重さにして0.1 %あるかないか)で,微小(1 μmなんてかなり巨大)で,しかもいろいろな種類の磁性鉱物が混ざっているからです.同じ磁性鉱物の研究でも,火成岩を対象とするときの方がもう少し整然としています.火成岩(溶岩や深成岩)の場合は,磁性鉱物はマグマ起源ですから,たとえ風化していてもある程度含まれている磁性鉱物を,造岩鉱物として推定できます.また,一般に大きな鉱物が多いので,光学顕微鏡(反射光)や,電子顕微鏡と元素分析装置がセットになったEPMA,さらにX線回折装置などの直接的な分析装置が重要な役割を果たしています(齋藤,2005).しかし,微小・微量な堆積物中の磁性鉱物では,これらの直接的な分析装置の出番はあまり多くないのです.

2. バルク試料の磁気的分析

泥などの堆積物中の微量・微小な磁性鉱物の分析方法としては,堆積物をそのまま試料とするバルク分析が便利で問題が少ないといっていいでしょう.バルク分析ではない場合は,堆積物中から磁性鉱物だけを選び出さなければならないのですが,選び出すという操作自体が分析の結果を大きく左右してしまいます.つまり,分析に大きなバイアスがかかる可能性があるのです.ですから,できるだけバルク分析の方がいいのです.しかも,堆積物試料をそのままで分析するバルク分析のほうが,試料を準備する手間が少ないですから,多量の堆積物試料を処理するには適しています.コア試料なら,1 cmごとの分析というような高密度の分析も不可能ではありません.

さらに,磁性鉱物の分析には,磁性に着目した磁気的分析が一番感度がいいのです.磁性が売り物の磁性鉱物ですから,当たり前といえば当たり前の話しです.ところで,バルク試料の磁気的性質を決めているのは,当然含まれている磁性鉱物の種類とそれぞれの量です.しかし,それ以外に磁性鉱物の大きさも無視できません.無視できないどころか,決定的に重要です.それは,磁性鉱物はその大きさ,厳密にいうと磁区構造によって,磁気的な性質を大きく変えるからです.その変わり方は大きさにたいして単純に比例するようなものではありません.図2-1は初磁化率の例ですが,粒径が多きなるに従って複雑に変化します.つまり,磁性体の性質は,種類,含有量,それに大きさという3つの要素によって支配されているのです.これが,他の物性と大きく異なります.たとえば,密度,熱伝導率,電気抵抗など,ほぼ全ての物性は試料の大きさが変わっても変わりません.磁性だけが特別なのです.これが磁性分析の有利な点でもあり,同時に難しい点でもあります.

図2-1
磁性鉱物(マグネタイト)の粒径と初磁化率の関係(鳥居, 2005より改変)
Fig 2-1.jpg

バルク試料では,磁性鉱物以外の物質の示す磁性も問題になることもあります.磁石にひきよせられるような広義の強磁性体でなくても,全ての物質は何らかの磁性(常磁性,反磁性)を示します.ですから,堆積物中の磁性鉱物の含有量が非常に少ないときは(例えば微化石が大部分を占めるような石灰質の堆積物など),磁性鉱物以外の堆積物本体の磁性が目立ってしまうこともあります.つまり,バックグラウンドの磁性についても配慮が必要です.

3. 堆積物中の磁性鉱物の起源

堆積物中の磁性鉱物の素性(起源)について考えて見ましょう.大体は以下のように分けられると思われます.

3.1 陸上の岩石に起源がある場合で,河川によって運ばれるあらゆる地殻物質(岩石や土壌).風によって運ばれる地殻物質(ダスト)や火山灰.それ以外に,海底の岩石からもたらされるものも当然あるはずです.これらは,火成岩起源,変成岩起源,そして堆積岩起源など複雑な履歴をもっていると思われます.

3.2 生物起源の場合.生物(バクテリアや大型の生物)が体内で合成した生体磁石(BCC: biologically controlled crystallization).生物が作用して生体の周辺で合成した鉱物ないし鉱物の前駆物質(BMC: biologically mediated crystallization).陸から離れた深海底堆積物の場合は,生体磁石が安定な古地磁気記録を担っている場合が多いようです.

3.3 水中あるいは堆積物中で化学的に合成さたもの(続生作用,変質作用).これらは,2次磁化の原因となる場合が多く,初生の古地磁気記録を復元するためには,それらの性質を理解することが必須となります.

3.4 宇宙起源,つまり宇宙塵など.堆積物中から,まれに球状の磁性体を発見することがありますが,それらは宇宙塵の可能性があります.

3.5 人工的な物質(例外的?)

どの起源の磁性鉱物が多いのか,どれだけの種類が含まれているのかは,陸からの距離,海洋環境の違い,堆積物の年代などによって大きく異なります.一般論として,あまり先入観を持たずに,堆積物にはいろいろな起源の磁性鉱物が入っていると考えるべきでしょう.

4.磁性鉱物の種類

堆積物中に普通に含まれている磁性鉱物の種類は,鉄の酸化物,鉄の硫化物,鉄の水酸化物と考えていいでしょう.それ以外にも鉄の炭酸塩やリン酸塩などがありますし,鉄とマンガンの化合物などもありますが,今のところ例外的だと考えおいてください.正直にいいますと,よく分かっていないのです.主な磁性鉱物を以下の表に示します.

表4-1
主要な磁性鉱物とその磁気的特徴
Table 4-1.jpg

火成岩の主要な磁性鉱物である鉄の酸化物では,鉄の一部がチタンで置換されている場合が一般的です.つまり,マグネタイトとウルボスピネルを端成分とするチタノマグネタイト系列の磁性鉱物と,それとマグマ中で共存していたヘマタイトとイルメナイトを端成分とするチタノヘマタイト系列の磁性鉱物が存在しています.これらの磁性鉱物は,鉄ーチタンー酸素の3成分系ですが,分かりやすくするために,下の図のようにルチル(TiO2)ーウスタイト(FeO:2価鉄イオン)ーヘマタイト(Fe2O3:3価鉄イオン)の3成分系で表現されます.堆積物中にはこれら火成岩起源の磁性鉱物が含まれている場合が多いので,この3成分系をよく理解しておく必要があります.

図4-1
鉄とチタンを陽イオンとする酸化物磁性鉱物の三角ダイアグラム.
Fig_4-1rgb.jpg

火成岩を対象とする場合には,上の図に示された関係を理解していれば大体のことは分かります.しかし,堆積物の場合はもっと複雑で,酸化物以外に硫化物(グレイガイトなど)などが含まれている可能性を常に考えてみる必要があります.また,堆積物は風化が進みやすいので,チタノマグネタイトが低温酸化されるなど,磁性鉱物の種類を複雑にしている可能性が高いのです.これ以上,個々の磁性鉱物について詳しく述べるだけの時間がありませんので,この程度にとどめたいと思います.

5. コア試料の通常の磁気測定から得られる情報

コア試料の岩石磁気学的データは,特別な測定をしなくても,通常の古地磁気測定に付随した実験からかなりの情報が手に入ります.

5.1 自然残留磁化(NRM)の強度や安定性

自然残留磁化の強度は,堆積物が磁化したときの地球磁場の強さと,含まれている磁性鉱物の性質が反映されています.また,残留磁化の消磁に対する挙動(安定性)は,磁性鉱物の種類や粒径に大きく関係しています.これらの情報は古地磁気測定をすると必ず得られるものですから,まずそこからできるだけ役に立つ情報を読み取りましょう.NRMの強度と堆積物の色や粒度を組み合わせて考えれば,含まれている磁性鉱物が単純なのか,それとも複雑なのかをだいたい推定できると思います.

5.2 初磁化率(low-field magnetic susceptibility)

初磁化率は,地球磁場程度の弱い磁場中(low-field)に試料を置いたときに,試料に誘導される磁化を磁場の値で割った物理量で,通常単位重量当たりの値(χ: m3/kg)か,単位質量当たりの値(κ:無名数でSIと表される場合が多い)で表されます.初磁化率は,堆積物の磁性測定ではもっともポピュラーなもので,例えばIODPの船上ではルーチンでパススルー測定されています.ですから,あまり磁気的な量というイメージではなく,色などと同じように,堆積物についての一次情報のような取り扱いを受けている印象があります.

しかし,初磁化率は非常に複雑な値です.一般的には堆積物中に含まれている磁性鉱物の総量と理解されています.しかし,前節で述べたように,堆積物中には様々な起源の,様々な種類の磁性鉱物が含まれていますから,色々な磁性鉱物の混ざり方を反映しています.しかも,それぞれの量だけでなく,図2-1で示したように粒径にも強く支配されています.つまり,総合的な値なのです.測定方法は非常に簡単なのですが,単純には解釈はできない値だということをよく理解しておいてください.詳しいことは鳥居・福間(1990)などを見てください.

5.3 非履歴性残留磁化(ARM: Anhysteretic Remanent Magnetization)

ARMという残留磁化はなかなか有用な値です.詳しい理屈は小玉(1990)などで勉強してください.ごく簡単にいいますと,地球磁場程度の直流磁場を交流消磁中の試料に同時に作用させると磁化してしまいます.つまり消磁としては失敗なのですが,この操作によってARMという独立した磁化量が手に入ります.U-channel試料を用いる場合には,NRMの段階消磁が終わった後,引き続きパススルー磁力計でARMを付けて測定することができます.

ARMは,安定な自然残留磁化の担い手である微小(1 μmよりずっと小さい)な磁性鉱物の量を反映する磁化だと考えられています.ですから,安定な自然残留磁化を記録している磁性鉱物の量が,時間とともにどのように変動してきたのかを知る非常に有力な情報源なのです.ただし,磁性鉱物の濃度が増えると,互いに相互作用を及ぼしだしてしまい,そのために単純に解釈できなくなってしまうことが知られています(Yamazaki and Ioka, 1997).

ARMの獲得には,交流磁場と直流磁場の両方が必要です.しかも,その両方の強さに比例します.交流磁場については,多くの研究室で80〜100 mTの磁場が使われているので,ほぼ同じ条件だと考えていいでしょう.一方,直流磁場の方は様々なのですが,ARMの値を直流磁場で割ってやれば,磁化を磁場で割るわけですから,磁化率,つまりARM磁化率(χARM)が求まります.ARMの単位はAm2/kgです.磁場の方は,例えば地球磁場に程度の0.05 mT〜0.1 mTがよく使われます.単位系をそろえるために,0.1 mT → 1000/(4π) A/m という換算をしますと,ARM磁化率の単位も初磁化率と同じm3/kgとなります.磁化率ですから,同じ単位になるのは当然です.ARMそのものを使うより,ARM磁化率を使う方が獲得条件の差を考慮する必要がなくなるので便利です.

なお,ARM磁化率を初磁化率で割った値,χARM/χは試料中の磁性鉱物の粒径を推定するパラメータとしてよく利用されています(King et al., 1987).磁性鉱物が純粋なマグネタイトだけがであれば,この値にもとづいて平均粒径を推定することが可能です.しかし,そういう単純な条件はめったにないでしょうから,粒径変動の傾向を見るだけのパラメータと考えた方がいいでしょう.つまり,磁性鉱物の種類が大きく変わる場合には単純に解釈できないわけです.

5.4 等温残留磁化(IRM: Isothermal Remanent Magnetization)

等温残留磁化は,温度を変えずに(通常室温)で,試料に直流磁場をかけ,その時獲得される残留磁化です.十分大きな磁場をかければ,もう残留磁化は増えなくなりますから,その時獲得されるIRMを特に飽和等温残留磁化(SIRM)と呼びます.SIRMは大きな磁場で強制的に磁化させているわけですから,試料中の全ての強磁性鉱物の総量を示唆するパラメーターと考えていいでしょう.実は多少粒径に依存するのですが,ARMのように相互作用はないようです.

実際には,1 Tぐらいの磁場で獲得させたIRMをSIRMとしている場合が多いのですが,本当に飽和しているかどうかは,きちんと調べてみないと分かりません.また,電磁石もしくは超伝導磁石を用いてゆっくり磁化させる場合と,パルス磁石を用いてミリセカンド単位の短い時間で磁化させる場合とでは,厳密には同じになりません.これも注意が必要です.

SIRM以外に,ほとんどすべてのマグネタイトを磁化させるのに十分な強さである0.3 TのIRMもよく用いられます.その場合,一旦SIRMを付けてから,正反対の方向に0.3 TのIRM(IRM-0.3T)をつけ,S-0.3T = 0.5x(SIRM - IRM-0.3T)/SIRMというパラメータ(よくS-ratioと呼ばれますが,厳密にはS-0.3T (Bloemendal et al., 1993)と呼ぶべきです)が用いられます.この値が1.0に近ければ試料中の磁性鉱物はほとんどマグネタイトで,0.95以下ぐらいになるとマグネタイト以外の磁性鉱物が無視できなくなってきます.0.9以下になれば,重量的にはマグネタイト以外の磁性鉱物が圧倒的に多いことになります.ヘマタイトが多量に含まれている赤色の堆積物では,0.7以下になったりします.

Hard IRMあるいはHIRM = 0.5x{SIRM + IRM-0.3T}というパラメータ(Bloemendal et al., 1993)もよく用いられています.これは,S-0.3Tとは異なり,0.3 Tより保磁力の高い鉱物によって担われている残留磁化の強さを示す値です.IRMとHIRMの変動パターンが異なるときには,注意が必要になります.

下の図は,これまで説明したような通常の古地磁気測定に含まれて測定されることが多い磁気的なパラメータの測定例です.試料は,古地磁気測定用の7 ccのキューブ容器で採取されていますが,方位を付けていないのでNRMは測定されていません.10 mのコアから約300個の試料を採取し,初磁化率 → ARM磁化率 → SIRMとIRM-0.3Tを測定しています.磁気的な特徴から,堆積物を3つの層に分けることができそうです.

図5-1
琵琶湖湖底堆積物(BIW08B)の初磁化率,ARM磁化率,SIRM, χARM/χ,S-0.3Tの深さ方向への変化(那須他, 2010より改変).
Fig 5-1.jpg

6.岩石磁気学的分析

これからは,通常の古地磁気測定とは別に採取した,少量の試料(今回の実習のように )を用いて行う岩石磁気学的な分析について説明します.

強調したい点として,一般に残留磁化測定に比べて感度が高いので,ごく少量の試料で分析ができます.つまり,耳かき1すくいぐらいの試料(0.01 g 〜 0.1 g)でも可能です.また,試料を化学的に壊さない測定が多いので,順序さえ考えておけば試料の使い回しができたり,他の分野の使用済み試料を再利用することができます.このような特徴は,IODPなど試料を分配する時の競争が厳しい場合にはたいへん有利な条件になります.

磁性は温度と磁場を変えると性質を大きく変わります.ですから,磁化を測定する装置には磁場を変化させる装置や,温度を変化させる装置が組み合わされています.以下,具体的に個々の装置にしたがって説明していきます.

6.1 熱磁気天秤(Thermomagnetic Balance)による高温測定

熱磁気天秤と呼ばれている装置は,試料に強い磁場をかけるとると同時に,試料を加熱して磁化の変化を測定します.試料には磁場によって誘導された磁化(残留磁化ではない)が発生しており,それが加熱されるにしたがって変化していきます.これを熱磁気分析といいます.

強磁性鉱物の多くは,ある温度になると強磁性を失い,常磁性体に相変態します.この温度をキュリー点(温度)と呼びます.磁性の種類によってはネール点と呼ぶべきなのですが,ここでは簡単のためにすべてキュリー点と呼ぶことにします.キュリー点は鉱物ごとに違いますから,鉱物の種類を決めるのには非常に有力な方法です.下の図は,図4-1で説明したチタノマグネタイト系列とチタノヘマタイト系列の磁性鉱物のキュリー点が,化学成分の違いによって変化する様子を示しています.つまり,キュリー点を測定すれば,どのような化学成分の磁性鉱物か分かることになります.

図6-1
チタノマグネタイト系列とチタノヘマタイト系列のキュリー点.縦軸はキュリー点,横軸はチタノマグネタイト系列におけるウルボスピネルのモル比と,チタノヘマタイト系列におけるイルメナイトのモル比を示しています.
Fig 6-1.jpg

理屈通りになる場合もありますが,多くの場合は磁性鉱物が変質していたりしてるので,キュリー点だけで鉱物を決めるのは難しい場合が多いのです.また,鉄ーチタン酸化物以外の鉱物も表4-1に示すようにそれぞれのキュリー点を示します.つまり,鉱物種がわからないと,逆にキュリー点が解釈できないという矛盾したことになってしまいます.1種類のデータからだけ決められるほど,簡単なことでないのです.

さらに,様々の実験条件,加熱を空気中で行うのか(酸化的),真空もしくは不活性ガス中で行うのか(非酸化的)で,加熱に伴う化学変化の様子が大きく変わります.それも,鉱物を決める際の重要な情報になります.加熱スピードによって熱磁気曲線が違って見えることもあります.また,磁場の強さによっても変わります.逆に,磁場の強さをいろいろ変化させて測定することもあります.

熱磁気分析は,単にキュリー点を決めるためだけの測定ではなく,加熱曲線と冷却曲線の差(非可逆性)から,加熱によって試料にどのような化学変化が起こったのかも推定できる,非常に総合的な測定ということができます.

図6-2
同一試料を空気中で加熱した場合(左)と,アルゴンガス中で加熱した場合(右).加熱曲線と冷却曲線の差が測定条件によって異なることに注目してください.
Fig 6-2.jpg

コアセンターの熱磁気天秤は,大きな電磁石の中心から少しずらした位置に試料を垂直にぶら下げた形式の装置です.その試料の周りは電気炉になっていて,加熱すると試料の磁化の変化によって最初の平衡位置から試料がずれますから,それを梃子の原理で拡大して検出しています.現在,世界中の岩石磁気関係の研究室では,試料をお寺の鐘をつく撞木のように水平につるして測定する装置の方が多く使われているようです.日本では見慣れていないので写真を示しておきます.なお,最近では,初磁化率の温度変化を測定することも非常に良く行われています.初磁化率の温度変化からキュリー点を求める方法については,いろいろ議論があるようです(Petrovsky and Kapicka, 2006).コアセンターでもカッパブリッジという装置を用いて測定することができます.興味のある方はこの機会を利用して装置を見ておいてください.

図6-3
試料を水平に動かすタイプの熱磁気天秤(MMVFTB)
Fig 6-3.jpg

6.2 MPMS(Magnetic Property Measurement System)による測定

MPMSは主として室温以下の低温での磁性を測定するための装置です.超伝導磁力計で用いられているのと同じ原理の高感度の磁力計であるSQUID素子と,強磁場を発生することのできる超伝導磁石を組み合わせた装置です.コアセンターにある装置は,温度は1.9 Kから400 K (127 ℃)まで変化させることできます.磁場は最高5 Tまで出す事ができます.5 T(地球磁場の約10万倍)の強磁場中で,1粒の鉱物の磁化のわずかな変化をらくらくと測定できる優れものの装置です.Systemという名前のとおり,非常に多種多様の測定ができるのですが,まず低温での測定について説明します.

磁性鉱物は高温ではキュリー点という相変態を起こしますが,低温でも別な相変態を起こす場合があります.幸いにも古地磁気学・岩石磁気学にとってもっとも興味深い対象であるマグネタイトは,120 Kでフェルべー相変態という顕著な変化を起こして,磁性が大きく変わります.実は,このフェルべー相変態の正体にはまだよく分かっていない部分がありますが,それは物理学者達に任せておきましょう.

私達にとって非常に実用的な点は,マグネタイトの磁化は他のどの鉱物よりも大きいので(Table 4-1),極微量のマグネタイトが入っているだけでもフェルべー相変態が見いだされます.つまり,目下のところ試料中にマグネタイトが入っているのかどうかを知るもっとも感度のよい方法です.ただし,ここでいうマグネタイトは厳密な意味(stoichiometric)でのマグネタイトで,チタンを含んでいたり,あるいは変質(低温酸化)しているとフェルべー相変態は現れません(Özdemir et al., 1993).

堆積物中で発見されることは珍しいのですが,ピロータイトは34 Kではっきりした変化を示します.ヘマタイトはモーリン点と呼ばれている変化を-20℃前後で示しますが,見え方は粒径に依存するので,見えないときの方が多く工夫が必要です.また,グレイガイトは低温でなにも特徴的な変化を示さないのが,特徴といえば特徴です.

図6-4
マグネタイト,ピロータイト,ヘマタイトに低温でIRMをつけ,室温まで温度を上げる過程で見られる残留磁化の変化.
Fig 6-4.jpg

コアセンターのMPMSには,交流磁化率を測定できるオプションがついています.これを用いますと,室温以下にキュリー点がある場合には威力を発揮します.また,交流の周波数を3桁ほど変化させることができますから,粒径推定などに応用することも可能です.これはかなり上級編なので,簡単な紹介だけにとどめます.

6.3 IRM獲得曲線の解析

低温測定ではないのですが,MPMS独特の能力を生かした測定があります.MPMSはかなり複雑な測定でも,簡単に測定を自動化することができます.プログラム言語を使うことなく,用意されている制御コマンドを簡単にマクロ化できます.この能力を生かした例として,精密なIRM獲得曲線が挙げられます.手動で同じことをするのはまず不可能でしょう.

IRMが飽和するまで,少しずつ磁場を増加させていきますと,IRMの獲得曲線が求められます.もし,磁性鉱物が1種類しか含まれいなければ,なめらかな右肩上がりの曲線になりますが,複数の磁性鉱物が含まれていると増加率が大きく変化する複雑な曲線になります.IRM獲得曲線は,保磁力分布曲線を積算したものなのです.逆に,IRM獲得曲線を保磁力分布に分解できるIRM unmixingという手法(例えば,Irmunmix ver 2.2; Heslop et al., 2002)で解析しますと,複数の保磁力分布が重なっていることを示すことができます.ただし,これは最初に保磁力分布のモデル(対数正規分布など)を考えておく必要ある逆問題なので,得られる答えには任意性があります.しかし,試料中の磁性鉱物の種類を推定する上では非常に有力な方法だと思います.

図6-5
MPMSを用いて,1 mTから5 Tまでを対数で100等分した磁場で磁化させたIRM獲得曲線(左図:黒が実測値).これをIrmunmix ver 2.2を用いて解析すると,右図のように4種類の保磁力分布(対数正規分布)が得られる.つまり,4種類の異なる磁性鉱物集団がこの試料に含まれている可能性があることが示唆している.試料は姶良Tnテフラ.
Fig 6-5.jpg

6.4 3軸直交IRM

最後に,熱磁気天秤やMPMSを使わず,スピナー磁力計だけで測定できる,簡単ですが非常に実用的な方法を1つ紹介しておきます.

この方法は,互いに直交する磁化は独立しているという単純明快な原理に基づいています.通常のNRM測定用の試料を用意します.交流消磁が済んだ試料がいいでしょう.1つの試料のx方向に1.0 TのIRMを付けます.続いてy方向に0.4 T程度のIRMを付けます.このとき,x方向には1.0 Tから0.4 Tの間の保磁力に対応したIRM(hard)が残されます.さらに,z方向に0.1 TのIRMをつけますと,y方向には0.4 Tから0.1 Tの保磁力に対応したIRM(medium)が残され,z方向には0.1 T以下の保磁力のIRM(soft)が残ります.これを測定してx,y,zの3軸の磁化を求めます.これだけではおもしろくないので,この試料を段階熱消磁します.そうしますと,3つの保磁力成分の熱消磁が1つの試料で同時にできるのです.この方法を提案したのはLowrie (1996) です.単純ですが,磁性というものの本質をよく分かっていないと考えつかない方法だと思います.

図6-6
3軸IRMの熱消磁の例.グレイガイトを含む試料(左)とピロータイトを含む試料(右).
Fig 6-6.jpg

なお,交番力磁力計(AGM)や試料振動型磁力計(VSM)を用いた磁気ヒステリシス測定,FORC測定などの重要な測定方法がありますが,これらは,山本先生のレクチャーに含まれています.

7. おわりに

もし,耳かき1杯分の試料(~100 mg)しか手に入らなかったときには,以下の順序による測定をお勧めします.

まずMPMSを用いて,低温で獲得させたIRMの室温までの変化を測ります.余裕があれば,いろいろな温度での交流磁化率やヒステリシスをMPMSで測定するのもいいでしょう.それから,IRM獲得曲線を測定しましょう.これを複数の温度で測定するという難易度の高い測定もできます.こうしてMPMSを十分堪能したら,次はAGMでFORCを測定し,最後に熱磁気天秤で高温まで測定しましょう.もし,試料を2分できるくらい量があれば,アルゴンガス中と空気中の2測定をするのがいいでしょう.

これだけの測定をするのには,頑張っても数日はかかると思います.たった耳かき1杯分の試料でも,十分楽しむことができるのです.それでも,含まれている全ての磁性鉱物の種類,大きさ,量を確実に決めるられるかどうか,なかなか難しいと思います.最後に,深海底堆積物ではありませんが,このような方向の優れた研究例を紹介しましょう(Lagroix et al., 2004).努力と推理力がなによりも必要とされるのでしょう.

参考文献

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  • Heslop, D., M. J. Dekkers, P. P. Kruiver, and I. H. M. van Oorshot, Analysis of isothermal remanent magnetization acquisition curves using the expectation-maximization algorithm, Geophys. J. Int., 148, 58-64, 2002.
  • King, J. W., S. K. Banerjee, J. Marvin, and Ö. Özdemir, A comparison of different magnetic methods for determining the relative grain size of magnetite in natural materials: some results form lake sediments, Earth Planet. Sci. Lett., 59, 404-419, 1982.
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  • 鳥居雅之,環境磁気学:堆積物中の磁性鉱物が示す環境変動,まぐね,324-333,2008.
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  • Yamazaki, T. and N. Ioka, Cautionary note on magnetic grain-size estimation using the ratio of ARM to magnetic susceptibility, Geophys. Res. Lett., 24, 751-754, 1997.

執筆者

  • 2010年8月: 鳥居雅之, J-DESCコアスクール・古地磁気コースの講習資料として.

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